電車と風呂
でんしゃとふろ
初出:「新小説」1920(大正9)年5月1日分量:約13分
書き出し:電車の中で試みに同乗の人々の顔を注意して見渡してみると、あまり感じの好い愉快な顔はめったに見当らない。顔色の悪い事や、眼鼻の形状配置といったようなものは別としても、顔全体としての表情が十中八、九までともかくも不愉快なものである。晴れ晴れと春めいた気持の好い表情は、少なくも大人の中にはめったに見付からない。大抵《たいてい》神経過敏な緊張か、さもなくば過度の疲労から来る不感《アパシイ》が人々の眼と眉の...