球突場の一隅
たまつきばのいちぐう
初出:「新小説」1916(大正5)年2月分量:約36分
書き出し:一夕方降り出した雨はその晩遅くまで続いた。しとしととした淋しい雨だった。丁度十時頃その軽い雨音が止んだ時、会社員らしい四人達れの客は慌《あわただ》しそうに帰っていった。そして後には三人の学生とゲーム取りの女とが残った。室の中には濁った空気がどんよりと静まっていた。何だか疲れきったような空気がその中に在った。二つの球台《たまだい》の上には赤と白と四つの象牙球が、それでも瓦斯の光りを受けて美しく輝いて...