田原氏の犯罪
たはらしのはんざい
初出:「黒潮」1917(大正6)年8月分量:約70分
書き出し:一重夫《しげお》は母のしげ子とよく父のことを話し合った。それは、しげ子にとっては寧ろどうでもいい問題であったが、重夫にとっては何かしら気遣わしい、話さないではおれない問題であった。実際、重夫の父田原弘平は凡てに於て観照家でそして余りに寛大であった。然しそれはいいことであったかも知れない。ただ重夫が気遣わしく思ったのは、物にぶつかってゆく力を欠いだ父のそうした生活態度を通して、父のうちに或る空虚が澱...