特殊部落の犯罪
とくしゅぶらくのはんざい
初出:「新小説」1922(大正11)年2月分量:約19分
書き出し:一「久七、お前が好きな物持って来ただよ。」晴々しい若い声と共に、表の戸ががらりと引開けられた。とっつきの狭い土間、それから六畳ばかりの室、その室の片隅に、ぼろぼろの布団の上へ、更に二枚の蓆をかけて寝ていたのを、むっくり上半身だけ起してみると、引開けられた四角な明るみから、つるが飛び込んで来た。眼をぱちくりやってると、鼻先へ徳利をつき突けられた。「何だかあててみろう。」揺る度びにどぶりどぶりと重い液...