山の別荘の少年
やまのべっそうのしょうねん
初出:「文芸」1936(昭和11)年3月分量:約27分
書き出し:私は一年間、ある山奥の別荘でくらしたことがあります。なかば洋館づくりの立派な別荘でした。番人をしている五十歳ばかりの夫婦者と、その甥《おい》にあたる正夫《まさお》という少年がいるきりでした。私は正夫とすぐに親しくなって、いろいろなことを語りあい、いろいろなことをして遊びました。たくさん思い出があります。そのいくつかをお話しましょう。一さくら別荘の裏手の山つづきのところに、たくさんの桜の木がありまし...