藤井聡太名人が史上初の八冠制覇を達成し、今朝の日経新聞朝刊に本作が紹介されていたので読んでみた。 坂口安吾による、1947年の時の名人木村義雄と塚田正夫八段が対局した名人戦観戦記である。 日経新聞は木村名人の敗北を「『架空の権威』が地に落ちた、と安吾は感じ取った。『亡ぶべきものが亡びる時代だ』と看破した。そこに重ねたのは、戦後そのものだった」とあたかも旧時代の終焉と新時代の到来であるかのように記すが、安吾はそこまで高尚なことを書いている訳ではない。 食うか食われるか、刺すか刺されるかの勝負の世界でフェアプレーの精神などバカバカしい話で、ましてや将棋に一生を捧げた名人であれば常に鬼気迫る執念があって然るべきである。 木村名人は悪い意味で大人になり、実力よりも権威や風格の面で名人になっていたから、負けるべくして負けたのだと安吾は書く。 「亡ぶべきものが〜」の一節も、安吾はこれからの戦後日本はそのようにあるべきという意味で使用しており、日経の書き方はかなり歪曲的であると思った。 安吾が読んだらきっと困惑するだろう。