「散る日本」の感想
散る日本
ちるにほん
初出:「群像 第二巻第八号」1947(昭和22)年8月1日

坂口安吾

分量:約46
書き出し:一九四七年六月六日私は遠足に行く子供のやうな感動をもつて病院をでた。私の身辺には病人があり、盲腸から腹膜となつて手術後一ヶ月、まだ歩行不自由のため私も病院生活一ヶ月、東京では六・一自粛などと称して飲食店が休業となり、裏口営業などといふ、この影響如何、悪政と思はざるか、新聞記者がそんなことを訊きにくる。つまり私が飲ン平で六・一自粛の被害者の代表選手に見立てられたわけだが、病院生活一ヶ月、私は東京と無...
更新日: 2023/10/11
00813f8b221dさんの感想

藤井聡太名人が史上初の八冠制覇を達成し、今朝の日経新聞朝刊に本作が紹介されていたので読んでみた。 坂口安吾による、1947年の時の名人木村義雄と塚田正夫八段が対局した名人戦観戦記である。 日経新聞は木村名人の敗北を「『架空の権威』が地に落ちた、と安吾は感じ取った。『亡ぶべきものが亡びる時代だ』と看破した。そこに重ねたのは、戦後そのものだった」とあたかも旧時代の終焉と新時代の到来であるかのように記すが、安吾はそこまで高尚なことを書いている訳ではない。 食うか食われるか、刺すか刺されるかの勝負の世界でフェアプレーの精神などバカバカしい話で、ましてや将棋に一生を捧げた名人であれば常に鬼気迫る執念があって然るべきである。 木村名人は悪い意味で大人になり、実力よりも権威や風格の面で名人になっていたから、負けるべくして負けたのだと安吾は書く。 「亡ぶべきものが〜」の一節も、安吾はこれからの戦後日本はそのようにあるべきという意味で使用しており、日経の書き方はかなり歪曲的であると思った。 安吾が読んだらきっと困惑するだろう。