城のある町にて
しろのあるまちにて
初出:「青空」青空社、1925(大正14)年2月号分量:約48分
書き出し:ある午後「高いとこの眺めは、アアッ(と咳《せき》をして)また格段でごわすな」片手に洋傘《こうもり》、片手に扇子と日本手拭を持っている。頭が奇麗《きれい》に禿《は》げていて、カンカン帽子を冠っているのが、まるで栓《せん》をはめたように見える。——そんな老人が朗らかにそう言い捨てたまま峻《たかし》の脇を歩いて行った。言っておいてこちらを振り向くでもなく、眼はやはり遠い眺望《ちょうぼう》へ向けたままで、...