「葬られたる秘密」の感想
葬られたる秘密
ほうむられたるひみつ

小泉八雲

分量:約6
書き出し:むかし丹波の国に稻村屋源助という金持ちの商人が住んでいた。この人にお園という一人の娘があった。お園は非常に怜悧で、また美人であったので、源助は田舎の先生の教育だけで育てる事を遺憾に思い、信用のある従者をつけて娘を京都にやり、都の婦人達の受ける上品な芸事を修業させるようにした。こうして教育を受けて後、お園は父の一族の知人——ながらやと云う商人に嫁《かたづ》けられ、ほとんど四年の間その男と楽しく暮した...
更新日: 2022/02/26
cdd6f53e9284さんの感想

若死にした妻の霊が夜ごとあらわれ、家人は恐怖する。 半身をおぼろに霞めたその妻の霊は、生前に自分が愛用した箪笥の前に座って、不安気にじっと箪笥を見つめいるだけだ。 家人はおののきながらも、亡き夫人が生前に愛用した着物や帯に未練が残って成仏ができないのであろうと判断し、寺に事情を話して、箪笥の中にある着物や帯をすべて寺に納めて供養してもらうことにした。 これでもう夫人も成仏できたであろうと安堵していたところ、前夜と変わらずその夜も再び霊は現れ、また、箪笥をじっと見つめている。 怯え困惑した家人は、思い余って高名な僧侶に相談した。 「よろしい、委細承知した。霊の願いが奈辺にあるか、この拙僧が敢然問い質してみるによって、わしが声を掛けるまでナンビトたりとも、部屋に近づくことはならんぞ、左様心得よ、あい分かったな」 やがて夜になり、高僧の前に霊は現れて、また箪笥を見つめ始める。 しかし、確か箪笥の中身は空のはずだが、と思いながら、じっと霊の様子を観察していた高僧は、あることに気がつく。 そうだ、まだ引き出しの内側に貼ってある紙があるではないか。 高僧がその紙を一枚一枚剥がしていくと、その下に一通の手紙が隠されていた。 それは彼女が京都へ行儀見習いに行っていた時に、ある男から付け文された手紙だった。 そこで若妻の霊は懇願する、この手紙のことは、家族には、くれぐれも内緒にしておいて欲しいと。 高僧も、必ずや秘密裏に処分するであろうことを彼女に誓った。 安堵した霊は、それ以来、現れなくなったという物語。 この物語を読んだ直後は、たかが「一通の付け文」くらいで、死に迷い、成仏できないほどに迷ったりするだろうか、という疑問に囚われた。 しかし、こんなふうにも考えてみた。 例えば、爛れた肉欲が絡むこじれた関係の末に破綻した愛人への執着心というものがあったとして、その秘められた思いがこれほど長続きするものだろうか。 むしろ、恋愛に憧れるだけで、いまだ現実の色恋には怯え物怖じするしかない未経験な女性が、初めて貰った手紙に深い思いを抱くという方が、なんだか説得力があるような気がする。 「秘められた思いの永続性」を説明するにも、処女の性への憧れと恐れを想定する方が、この場合、納得しやすいかもしれない。 ただ、この物語を読んだ直後に、以下のような一文に接した。 《この話は、「新撰百物語」中の「紫雲たな引密夫の玉章」を原拠とするが、ハーンは原話の初めにある長い教訓的な部分と、最後にお園(若妻)の亡霊が再び現れる箇所を削除し、原話に「不義の玉章数十通」とあるところを「一通の手紙」と変えただけで原話のドギツサを払拭し、お園のただ一度の過ちと、それゆえの心残りを印象づけている。それだけでなく、幼い子供をお園の亡霊と一瞬会わせることで、読者に、若くして死んだ彼女への同情を起こさせ、彼女への成仏を確信させるのである》だってさ。 へぇ~、この解説によると、本当はさんざん遊んだヤリマンみたいな女(ひと、と読んでください)がモデルだったようで、ちょっと引いたが、やはり、ストーリーとして清浄にこだわった八雲の選択は正しかったし、処女性にこだわった自分の選択の方が、さらに正しかったと言えようか。 ぶっちゃけ、清浄で綺麗な話の方が、よっぽどいいよって話

更新日: 2021/07/07
9ae6e0b8b5a1さんの感想

少ない頁で良くできた話 手紙の内容を書かないのが想像を駆り立てる お見事です

更新日: 2019/10/28
19双之川喜41さんの感想

 何に 思いが残って 幽霊になってでてきたのか。 ばあさんは 坊さまに 一伍一什話す。 初めから終わりまでの意だそうで 全体的に 平易だけれど 判らん記述もあります。 翻訳者の学識に依るのかもしれないと感じた。

更新日: 2019/02/22
8e46b5bc1c6aさんの感想

流石、和尚さま。グッジョブ。中身が気になるところだけど知ってるのは和尚さまだけでじゅうぶん。浄化されたし。

更新日: 2019/01/28
006aa92878fdさんの感想

内容が気になりますね。

更新日: 2018/08/10
b26904b88bbaさんの感想

身近な人を亡くし、人生を鑑みる者には、哀しさ、はかなさ悲愴感、答えようのない感覚が、淫靡な文体を通して蘇りました。主人公の女性にとってその手紙は人生を左右するくらい大切なもの。女性の繊細さ、性格が、未練によって、想像力をかき立てられました。(秘密)誰でも在りますよね。単純でいて深い作品だと思いましす。

更新日: 2018/08/04
6bf99993014aさんの感想

短くて、その中に沢山の感情が詰まっていて、面白い。

更新日: 2018/04/30
458a0bcdfa2eさんの感想

いつの時代も人の気がかりは変わらないものですね。

更新日: 2018/01/26
dbc85275607cさんの感想

お園かわいい

更新日: 2018/01/25
gnosaさんの感想

怪談だけど、結構粋な話だ。

更新日: 2016/01/18
takehiroさんの感想

墓場にまで持って行く秘密。秘められた女心と、それを斟酌する和尚の優しさ。和尚が亡くなるとその秘密も一緒に葬られた。短い文章に、女とそして和尚の生涯を夢想できた。良い読書体験とはこういう物かと思った。

更新日: 2015/12/30
奥津棄戸明さんの感想

修行中に貰った艷書を棄てられず後生大事に箪笥に隠していた気持ちや、それを気にして成仏出来ないお園のことを考えると、親の決めた相手に嫁がないといけなかった、当時の女性の人生というのは味気ないものだと思う。