ダス・ゲマイネ
ダス・ゲマイネ
初出:「文藝春秋」1935(昭和10)年10月分量:約56分
書き出し:一幻燈当時、私には一日一日が晩年であった。恋をしたのだ。そんなことは、全くはじめてであった。それより以前には、私の左の横顔だけを見せつけ、私のおとこを売ろうとあせり、相手が一分間でもためらったが最後、たちまち私はきりきり舞いをはじめて、疾風のごとく逃げ失せる。けれども私は、そのころすべてにだらしなくなっていて、ほとんど私の身にくっついてしまったかのようにも思われていたその賢明な、怪我の少い身構えの...