母を殺した少年
ははをころしたしょうねん
初出:「作品 第七巻第九号」1936(昭和11)年9月1日分量:約11分
書き出し:雪国生れの人々は気候のために故郷を呪ひがちであつた。いつもいつも灰色の空。太陽は生命と希望の象徴であるが、象徴を失ふことが現実に希望と生命を去勢する無力さを、彼等は知らねばならなかつた。ためらひや要心や気憶れや、人間関係の弱さだけで沢山だつた。そのうへまるで植物のやうに自然界の弱さまで思ひ知らねばならないのだ。雪国の叡智を育てるものは疑ひ深い要心と抜け道のないためらひだつた。味方すら信じきれない細...