臨時急行列車の紛失
りんじきゅうこうれっしゃのふんしつ
初出:「新青年 第二卷 第四號」博文館、1921(大正10)年3月13日分量:約40分
書き出し:はしがき死刑を宣告されて今マルセイユ監獄に繋がれているヘルバルト・ドゥ・レルナークの告白は、私の信ずるところでは、どこの国の犯罪史を繙《ひもと》いてみても、絶対的に先例が無かっただろう‥‥‥と思われるような、あの異常な事件の上にようやく一道の光明を投げあたえた。官辺では、この事件を論ずることを明らかに避けているけれど、そして新聞もそれに調子を合せてほとんど沈黙を守っているけれど、とにかく我々は、こ...