「内田百間氏」の感想
内田百間氏
うちだひゃっけんし
初出:「文芸時報 第四二号」1927(昭和2)年8月4日

芥川竜之介

分量:約1
書き出し:内田百間氏は夏目先生の門下にして僕の尊敬する先輩なり。文章に長じ、兼ねて志田流《しだりう》の琴に長ず。著書「冥途《めいど》」一巻、他人の廡下に立たざる特色あり。然れども不幸にも出版後、直に震災に遭へるが為に普《あまね》く世に行はれず。僕の遺憾とする所なり。内田氏の作品は「冥途」後も佳作必ずしも少からず。殊に「女性」に掲げられたる「旅順開城」等の数篇等は戞々《かつかつ》たる独創造の作品なり。然れども...
更新日: 2022/03/27
cdd6f53e9284さんの感想

この文章を読んで、内田百間が、芥川龍之介の先輩であることを始めて知った。 早世した作家と長寿だった作家を対比した時に生ずる苦い錯覚とでもいえようか。 たぶん、そればかりでなく、内田百間の方は、青空文庫に収録されていないので、そういうことも影響しているのかもしれない。 それにしても、内田百間が収録していないのは、かえすがえすも残念だ。 調べてみたら、没年が1971年ということだから、著作権が切れていないということか。 内田百間作品のイチ押しは、なんといっても、幻想·夢魔·不安·恐怖といった暗黒世界を描いた「件(くだん)」と「短夜」だろう、月も傾く闇夜に、死者たちが現世と冥界を自在に行き来する幻妙な物語だ。 自分の若い頃は、内田百間の「けん」の字は、確か、門構えに月としていたはずだが、何かの事情で変わったのだろうか、日か月か、調べてみた。 本名は内田栄造、岡山の生まれで、この百間という雅号は、故郷を流れる百間川から採ったとあるから、本来なら、門構えの中は「日」とするのが順当なのだが、そこは百間先生、いくらなんでも日では眩しすぎる、闇夜の朧月くらいが適当なところだ、ということで、「ひゃっけん」は、門構えに「月」の字にしたらしい。 いかにも性けんかいで偏屈者の頑固爺いの百間らしい。 まばゆい日光より、幻妙にして幽冥な月陰の方が似合うということか。