釣り師の心境
つりしのしんきょう
初出:「文学界 第三巻第六号」1949(昭和24)年8月1日分量:約14分
書き出し:私は妙に魚釣りに縁のあるあたりに住んできたが、小田原で三日間ぐらい鮎釣りをした以外は魚を釣ったことがない。先日もお医者さんから、早朝の魚釣りなどは健康によろしいから、とすゝめられたが、なるほど今住むところも、わざ/\東京から釣りにくる人があって、それを目当てのボート屋などもある土地だが、釣りをする気持にはなれないのである。駅前のカストリ屋のオヤジは投網《とあみ》をもっていて、これも私を頻りに誘う。...