裏切り
うらぎり
初出:「新潮 第五一巻第九号」1954(昭和29)年9月1日分量:約89分
書き出し:ぼくが阿久津に働いていたので、日野が出入りするようになりました。彼が元子爵の息子だというのは本当です。しかし奴めを斜陽族と云うのはとんでもないことで、彼が戦前ぼくと中学同級のとき、すでに裏長屋同然のところから通学しておりました。彼の父の子爵もそこに住んでいたのです。戦前から落ちぶれはてた世に稀な貧乏華族だったのです。ぼくらは彼を野ザラシとよんでいました。例の落語の野ザラシで、サレコーベに酒をぶッか...