ある僧の奇蹟
あるそうのきせき
初出:「太陽」1917(大正6)年9月分量:約97分
書き出し:一久しく無住《むぢゆう》であつたH村の長昌院には、今度新しい住職が出来た。それは何でも二代前の老僧の一番末の弟子で、幼い時は此の寺で育つた人だといふことであつた。「ほ、あのお小僧さんが?それはめづらしいな。」などと村の人達は噂《うはさ》した。先代の住職が女狂ひをして、成規《せいき》を踏まずに寺の杉林を伐《き》つて売つたりして、そのため寺にもゐられなくなつてから、もう少くとも十二三年の歳月は経過した...