鱗粉
りんぷん
初出:「探偵春秋」春秋社、1937(昭和12)年3月号分量:約74分
書き出し:一海浜都市、K——。そこは、この邦《くに》に於《お》ける最も華やかな、最も多彩な「夏」をもって知れている。まこと、K——町に、あの爽やかな「夏」の象徴であるむくむくと盛り上った雲の峰が立つと、一度にワーンと蜂の巣をつついたような活気が街に溢《あふ》れ、長い長い冬眠から覚めて、老《おい》も若きも、町民の面《おもて》には、一|様《よう》に、何《なに》となく「期待」が輝くのである。実際、この町の人々は、...