明治時代の文学黎明期にあって、北村透谷の存在は燦然とそびえ立つ独峰だと思う。ただ、鋭利な頂上をいただくが、さらに大きな山になる前に27歳という若さで自ら活動を停止してしまった。もちろんそういった全てを含め、北村透谷であり今でも十分輝いている。その晩年、交流を持った島崎藤村が短編ながら北村透谷の一生を活写した。表現は簡潔ながら、生きた北村透谷の実像が浮かび上がってきた。思わず身を乗りだし、一気に読んでしまった。この作品を読み、北村透谷の著作から受けた気持ちの熱い凄みのある北村透谷の印象は変わらなかったが、しかしこの作品で知った病に犯され弱音もはく等身大の北村透谷はとても魅力のある表現者であることを再認識した。北村透谷に影響を受けた人の必読作品だと思う。(周五)