「北村透谷の短き一生」の感想
北村透谷の短き一生
きたむらとうこくのみじかきいっしょう
初出:「文章世界」1912(大正1)年10月

島崎藤村

分量:約22
書き出し:北村透谷君の事に就ては、これまでに折がある毎に少しずつ自分の意見を発表してあるから、私の見た北村君というものの大体の輪廓は、已《すで》に世に紹介した積りである。北村君の生涯の中の晩年の面影だとか、北村君の開こうとした途《みち》だとか、そういう風のものに就ては私は已にいくらか発表してある。明治年代も終りを告げて、回顧の情が人々の心の中に浮んで来た時に、どういう人の仕事を挙げるかという問に対しては、い...
更新日: 2019/10/03
95684b57828eさんの感想

明治時代の文学黎明期にあって、北村透谷の存在は燦然とそびえ立つ独峰だと思う。ただ、鋭利な頂上をいただくが、さらに大きな山になる前に27歳という若さで自ら活動を停止してしまった。もちろんそういった全てを含め、北村透谷であり今でも十分輝いている。その晩年、交流を持った島崎藤村が短編ながら北村透谷の一生を活写した。表現は簡潔ながら、生きた北村透谷の実像が浮かび上がってきた。思わず身を乗りだし、一気に読んでしまった。この作品を読み、北村透谷の著作から受けた気持ちの熱い凄みのある北村透谷の印象は変わらなかったが、しかしこの作品で知った病に犯され弱音もはく等身大の北村透谷はとても魅力のある表現者であることを再認識した。北村透谷に影響を受けた人の必読作品だと思う。(周五)