指輪一つ
ゆびわひとつ
初出:「講談倶樂部」1925(大正14)年8月分量:約26分
書き出し:一「あのときは実に驚きました。もちろん、僕ばかりではない、誰だって驚いたに相違ありませんけれど、僕などはその中でもいっそう強いショックを受けた一人で、一時はまったくぼうとしてしまいました。」と、K君は言った。座中では最も年の若い私立大学生で、大正十二年の震災当時は飛騨《ひだ》の高山《たかやま》にいたというのである。あの年の夏は友人ふたりと三人づれで京都へ遊びに行って、それから大津のあたりにぶらぶら...