怪しの館
あやしのやかた
初出:「サンデー毎日」1927(昭和2)年6月15日分量:約59分
書き出し:一ここは浅草の奥山である。そこに一軒の料理屋があった。その奥まった一室である。四人の武士が話している。夜である。初夏の宵だ。「どうでも誘拐《かどわか》す必要がある」こういったのは三十年輩の、いやらしいほどの美男の武士で、寺侍かとも思われる。俳優といってもよさそうである。衣裳も持ち物も立派である。が、寺侍でも俳優でもなく、どうやら裕福の浪人らしい。「どうして誘拐いたしましょう?」こうきいたのは三十二...