怪しの者
あやしのもの
初出: 「日本伝奇名作全集4 剣侠受難・生死卍巴(他)」番町書房、1970(昭和45)年2月25日分量:約34分
書き出し:一乞食の権七が物語った。尾張の国春日井郡、庄内川の岸の、草の中に寝ていたのは、正徳三年六月十日の、午後のことでありました。いくらか靄《もや》を含んでいて、白っぽく見えてはおりましたが、でもよく晴れた夏の空を、自分の遊歩場《あそびば》ででもあるかのように、鳶《とび》が舞っておりましたっけ。ふと人の気勢《けはい》を感じたので、躰《からだ》を蔽《おお》うている草の間から、わたしはそっちを眺めました。二十...