科学者と夜店商人
かがくしゃとよみせしょうにん
初出:「科学画報」1929(昭和4)年8月号分量:約10分
書き出し:こう暑くなっては、科学者もしぶしぶと実験室から匍《は》い出さずにはいられない。気温が華氏八十度を越えると脳細胞中の電子の運動がすこし変態性を帯びて来るそうだ。そんなときにうっかり忘我的研究をつづけていると、電子はその変態性をどんどん悪化させ、遂には或る臨界点を過ぎてしまった。再び頭脳は常態に復帰しないそうだ。そうなると病院の檻の中に実験室をうつさなければならないので、さてこそしぶしぶと実験室を匍い...