独房
どくぼう
初出:「中央公論 夏期特集号」中央公論社、1931(昭和6)年7月分量:約45分
書き出し:誰でもそうだが、田口もあすこから出てくると、まるで人が変ったのかと思う程、饒舌《じょうぜつ》になっていた。八カ月もの間、壁と壁と壁と壁との間に——つまり小ッちゃい独房の一間《ひとま》に、たった一人ッ切りでいたのだから、自分で自分の声をきけるのは、独《ひと》り言《ごと》でもした時の外はないわけだ。何かものをしゃべると云ったところで、それも矢張り独り言でもした時のこと位だろう。その長い間、たゞ堰《せ》...