秋の雲
あきのくも
初出:「サンデー毎日 第三十年第三十七号(新秋特別号)」1951(昭和26)年9月10日分量:約50分
書き出し:一熊川忠範の名前は、今や、全村はおろか、県下に知れ渡らうとしてゐる、といつても言ひ過ぎではない。一介の炭焼が、突如として名声を博し、やがて産を成す希望を与へられたと言へば、おそらく森の奥で金塊を拾つたか、谷川のほとりにラヂウム泉の湧き出るのを見つけたか、そのへんのところに相違ないと思ふひともあらうが、話はもう少し込み入つてゐて、しかも、人生の皮肉を興深く感じさせるものである。太平洋戦争酣な頃、上州...