――ゴンクウルの『娼婦エリザ』――
――ゴンクウルの『しょうふエリザ』――初出:「中央公論 第四十一年第四号」1926(大正15)年4月1日岸田国士
先の大戦中まで日本は、自由にものの言えない国であった。行政機関により手紙は勝手に開けられ、電話は盗聴され、街を歩けば憲兵や特高が目を光らせる。そんな時代であった。 戦後70年が立ち、首相の悪口を街頭で声高に叫んでも捕まることはない時代になった。しかし、ネットという、下手をするとかつての特高よりやっかいなものが出てきた。個人情報は簡単に全国にさらされ、自分の意に沿わない意見には執拗なまでに攻撃を加える。 そしてもっとも恐ろしいのは、戦時中の検閲のようにお上が治安維持法など作って取り締まっているわけではなく、一市民がいつでも特高のように取り締まる側に豹変することである。相互監視社会。自分達の手で、言論の自由をどんどん封じている時代。全く生きづらい世の中である。