岸田国士
著者が 派遣先の 戦地で 背嚢(はいのう)から 角砂糖を とりだして 現地の 幼子に 与えると もっとくれと せがまれたとの 情景が 記されているけど その数年後に 幼い 私は 満州からの 引き揚げの 途中で 角砂糖を 同様に 恵まれたことを いまだに 鮮明に 思い出す。それから 半世紀以上過ぎた 今でも あの 真っ白な 角砂糖を 見ると 鼻が つんとなる。私は もっとちょうだいと 言い出せずに うじうじしていた。はっきり 言えば 良かった。
戦争や軍や統治に批判を加えているのに驚かされる。今読んでも色褪せていない。武漢攻略までの勝ち戦ゆえの余裕が検閲をゆるめたのか。
この作品は、日支事変(日中戦争)の緒戦である第二次上海事変終盤に戦地に入り、記述されたものです。作品前半の河川遡上時の戦闘場面や匪賊(国民革命党軍のゲリラ部隊)との野戦場面等は、体験した者でなければ書くことが出来ない記述(例えば、日本軍の部隊配置や匪賊のチェコ製機関銃の使用など)が見られ、個人的には、大変興味深く読めた。作品中盤の日本軍の宣憮工作と中国進出の欧米の植民地化工作の比較、作品終盤の当該事変(戦争)対する作者の見方や作者の考える在り方は、陸軍士官学校出身として“軍人”の面と大学で教鞭をとる文学者として“文人”の面とを持つ作者だから書けるものであると思う。素晴らしい著述と思う。