時代的なこともあってか、夢野久作後期の作品には反共主義、国粋主義の色味が強いものが多くある。多分この作品もそのうちの1つだと思う。物語や小説に仮託する形で自分の主義、思想をハッキリと反映させているので、コテコテの物語感はあまりない。 浅学のため思想について難しいことは分からないが個人の見解として、作中に登場した「虚無主義」について整理したい。 死が怖くない、恋愛とは遊蕩など厭世観ぽさがうかがえる「虚無主義」は、個人の精神世界、心の考え、感想を便宜上「虚無主義」という言葉にして使っている。 一方「共産主義」や「資本主義」などは私たちの知るとおり、社会や政治に対する意見の派閥、自身の主張を肩書きとして用いられている。そのため「虚無主義」「共産主義」は同じ「主義」という言葉が使われているが似て非なるものであり、むしろ形式的に合わせるために「虚無主義」の形を取っているのだと思った。