大菩薩峠
だいぼさつとうげ
19 小名路の巻
19 こなじのまき分量:約266分
書き出し:一その晩のこと、宇治山田の米友が夢を見ました。米友が夢を見るということは、極めて珍らしいことであります。米友は聖人とは言いにくいけれども、未《いま》だ曾《かつ》て夢らしい夢を見たことのない男です。彼は何かに激して憤《おこ》ることは憤るけれども、それを夢にまで持ち越す執念《しゅうねん》のない男でした。また物に感ずることもないとは言わないけれども、それを夢にまで持ち込んであこがれるほどの優しみのある男...