鳥右ヱ門諸国をめぐる
とりえもんしょこくをめぐる
初出:「花のき村と盗人たち」帝国教育会出版部、1943(昭和18)年9月30日分量:約42分
書き出し:一鳥山鳥右ヱ門は、弓矢を抱へて、白い馬にまたがり、広い庭のまんなかに立つてゐました。しもべの平次が犬をひいてあらはれるのを待つてゐたのです。その、しもべの平次を、主人の鳥右ヱ門はあまり好きではありませんでした。平次はかれこれ二月ばかりまへ、鳥右ヱ門の館《やかた》にやとはれて来た、背の低い、体のこつこつした、無口な男です。どこの生まれなのか、自分でもよく知らないといつてゐました。自分の生まれたところ...