創作生活にて
そうさくせいかつにて
初出:「新潮 第三十一巻第十一号」新潮社、1934(昭和9)年11月1日分量:約30分
書き出し:窓下の溝川に蛙を釣に来る子供たちが、「今日は目マルは居ねえのか。」「居ないらしいぞ。」などと、ささやき合つてゐるのを聴いた。さういふ俗称の蛙がゐると見える、いつたい何んな蛙の謂なのか——と私は、読みかけてゐた本を顔の上に伏せて、蚊帳のなかで耳をそばだてた。二三日前に押入の隅から取出した幼児の褓※蚊帳だつた。この貸家の先住者が忘れて行つたものらしい。洋傘の式で紐を引くと、四ツ手網のやうにパツと拡がる...