露路の友
ろじのとも
初出:「文藝春秋 オール讀物号 第二巻第四号」文藝春秋社、1932(昭和7)年4月1日分量:約28分
書き出し:一おそく帰る時には兵野《へいの》は玄関からでなしに、庭をまはつて椽側から入る習慣だつたが、その晩は余程烈しく泥酔してゐたと見へて、雨戸を閉めるのを忘れたと見へる。朝、階下の者が慌しく兵野の寝部屋をたゝいて、「盗棒が入りました。」と呼び起された。主に兵野の衣類ばかりが紛失してゐた。彼は酒呑みで、着物のことには殆んど頓着なかつたから、それらは主に彼の亡くなつた父親からのものばかりであつた。着物の他には...