夏ちかきころ
なつちかきころ
初出:「女性 第十巻第一号」プラトン社、1926(大正15)年7月1日分量:約42分
書き出し:一あいつの本箱には、黒い背中を縦に此方《こつち》向きにした何十冊とも数知れない学生時代のノート・ブツクが未だに、何年も前から麗々と詰つてゐる。——尤も扉には必ず鍵がかゝつてゐるが、硝子が曇りでないから、中の書籍は一|際《さい》見えるのであつた。珍らしいものは持つてゐないが殊の他の蔵書家で、書斎に続いた小さな納戸は殆んど書庫のかたちを呈してゐた。どうしてあんなノート・ブツクなどを、そんな風にならべて...