放し鰻
はなしうなぎ
初出:「民衆講談」1923(大正12)年11月分量:約13分
書き出し:E君は語る。本所|相生町《あいおいちょう》の裏店《うらだな》に住む平吉は、物に追われるように息を切って駈けて来た。かれは両国の橋番の小屋へ駈け込んで、かねて見識り越《ご》しの橋番のおやじを呼んで、水を一杯くれと言った。「どうしなすった。喧嘩でもしなすったかね。」と、橋番の老爺《おやじ》はそこにある水桶の水を汲んでやりながら、少しく眉をひそめて訊いた。平吉はそれにも答えないで、おやじの手から竹柄杓《...