姉の面影を見て清葉に惹かれる葛木、それをやむを得ず拒む清葉、清葉への意地で葛木を誘惑するお孝。日本橋の名妓ふたりと若い医学士の物語。お孝との仲を深めた葛木は突如出家のような真似をするが、一年の後帰ってきた頃にはお孝はすっかり狂っていた。時系列としては(十八~四十二+四十七と四十三~四十六が並列)→(四十八~六十二)〈一年後〉→(一~十七)→(六十三~六十七)と少し込み入った構成。 鏡花作品のねえさまは悉く妖しく、儚く、強く、美しい。本作もその例に漏れない。四十七の段、お孝と葛木の問答が特に素晴らしい。何もかも足りない男だと虐めに虐めあたしじゃ御不足?と詰め寄った末「人形が寂しい事よ。」と誘う駄目押しに痺れる。毎度のことながらここぞという場面の台詞回しがぴかいち。お孝が他者から葛木の妻として扱われ喜ぶ姿が描かれる五十二の段もいい。 姉は母の、人形は姉や清葉の、清葉は姉の、お孝は清葉の(そして最後に清葉はお孝の)身代わりとして機能する訳だが他人の中に他の誰かを求めたり自分で誰かに成り代わろうとする行為の切なさ、虚しさ。それでも一種の恍惚がある。