「ふるさとに寄する讃歌」の感想
ふるさとに寄する讃歌
ふるさとによするさんか

夢の総量は空気であった

ゆめのそうりょうはくうきであった初出:「青い馬 創刊号」1931(昭和6)年10月1日

坂口安吾

分量:約16
書き出し:私は蒼空を見た。蒼空は私に泌みた。私は瑠璃色の波に噎ぶ。私は蒼空の中を泳いだ。そして私は、もはや透明な波でしかなかった。私は磯の音を脊髄にきいた。単調なリズムは、其処から、鈍い蠕動を空へ撒いた。私は窶れていた。夏の太陽は狂暴な奔流で鋭く私を刺し貫いた。その度に私の身体は、だらしなく砂の中へ舞い落ちる靄のようであった。私は、私の持つ抵抗力を、もはや意識することがなかった。そして私は、強烈な熱である光...
更新日: 2020/01/02
76e5964440e1さんの感想

我が青春の書。初読から50年余りを経た今になっても、涙が零れそう。 ワタシハアオゾラヲミタ。アオゾラハワタシニシミタ。 ワタシハルリイロノナミニムセブ… 冒頭の研ぎ澄まされた言葉の一つ一つが、まるでナイフのように皮膚を撫でます。 故郷はみずみずしい風景に溢れていながら、少女を見出だすことが出来ず、やるせない悲しみを抱えたまま、癌におかされた姉を見舞います。しかし悲しみもまた風景でしかないのです。 ワカレノミニガカッタ。結末のこの一文まで研ぎ澄まされた緊張が続きます。青春の書に違いありません。