田山花袋
住み慣れた土地(花袋の故郷である館林だろう)を離れ、東京へ転居する一家族の川下りの様子を描いた作品。 本文に『其頃、栗橋の鉄橋が出来たばかりであった』という一節があるので、栗橋鉄橋こと利根川橋梁(初代)が完成した1886年の夏が作品の舞台と思われる。 出世を夢見て希望に胸を膨らませる少年、見知らぬ土地に不安を覚えつつ、長男夫婦がいるので少しは楽が出来るだろうと安堵する未亡人の母親など、家族それぞれの思いを乗せ、船が下る渡良瀬川から利根川へと続く河川の雄大な描写も魅力的。