魔都
まと
初出:「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月分量:約746分
書き出し:第一回一、古市加十、月を見る事並に美人の嬌態の事甲戌《きのえいぬ》の歳も押詰って、今日は一年のドンじりという極月《ごくげつ》の卅一日、電飾眩ゆい東京会館の大玄関から、一種慨然たる面持で立ち現われて来た一人の人物。鷲《わし》掴みにしたキャラコの手巾《ハンカチ》でやけに鼻面を引っこすり引っこすり、大幅に車寄の石段を踏み降りると、野暮な足音を舗道に響かせながらお濠端《ほりばた》の方へ歩いて行く。見上ぐれ...