無月物語
むげつものがたり
初出:「オール讀物」1950(昭和25)年10月号分量:約48分
書き出し:後白河法皇の院政中、京の賀茂|磧《がわら》でめずらしい死罪が行なわれた。大宝律には、笞《ち》、杖《じょう》、徒《ず》、流《る》、死《し》と五刑が規定されているが、聖武天皇以来、代々の天皇はみな熱心な仏教の帰依者で、仏法尊信のあまり刑をすこしでも軽くしてやることをこのうえもない功徳だとし、とりわけ死んだものは二度と生かされぬというご趣意から、大赦とか、常赦とか、さまざまな恩典をつくって特赦を行なうの...