新西遊記
しんさいゆうき
初出:「別冊文藝春秋 第十九号新春小説集」1950(昭和25)年12月25日分量:約67分
書き出し:宇治|黄檗山《おうばくさん》の山口智海という二十六歳の学侶が西蔵《チベット》へ行って西蔵訳の大蔵経(一切経または蔵経、仏教の典籍一切を分類編纂したもの)をとって来ようと思いたち、五百三十円の餞別を懐ろに、明治卅年の六月廿五日、神戸を発って印度のカルカッタに向った。日本の大乗仏教は支那から来たせいで、蔵経も梵語《サンスクリット》(古代印度語)の原典の漢訳であるのはやむをえないが、宋版、元版、明版、竜...