川波
かわなみ
初出:「別冊文藝春秋 第五十一号」1956(昭和31)年4月分量:約23分
書き出し:第二次大戦がはじまった年の七月の午後、大電流部門の発送関係の器材の受渡しをするため、近くドイツに行くことになっていた大電工業の和田宇一郎が、会社の帰りに並木通りの「アラスカ」のバアへ寄ると、そこで思いがけなく豊川治兵衛に行きあった。「よう、いつ帰ったんだ」「つい、この十日ほど前に……用務出張でね、またすぐひきかえすんだ」「おれも急に出かけることになったんだが、戦争ははじまりそうか」「それはもう時期...