雲の小径
くものこみち
初出:「別冊少年新潮」1956(昭和31)年1月分量:約42分
書き出し:一時間からいうと、伊勢湾の上あたりを飛んでいるはずだが、窓という窓が密度の高いすわり雲に眼隠しされているので、所在の感じが曖昧である。大阪を飛びだすと、すぐ雲霧に包みこまれ、それからもう一時間以上も、模糊《もこ》とした灰白色の空間を彷徨している。はじめのころは、濛気《もうき》の幕によろめくような機影を曳きながら飛んでいたが、おいおい高度をあげるにつれて、四方からコクのある雲がおしかさなってきて、旅...