藤九郎の島
とうくろうのしま
初出:「オール讀物」1952(昭和27)年9月分量:約27分
書き出し:一享保四年の秋、遠州|新居《あらい》の筒山船《つつやまぶね》に船頭左太夫以下、楫取《かじとり》、水夫《かこ》十二人が乗組んで南部へ米を運んだ帰り、十一月末、運賃材木を積んで宮古港を出帆、九十九里浜の沖合まで来たところで、にわかの時化《しけ》に遭った。海面《うなづら》いちめんに水霧がたち、日暮れ方のような暗さになって、房総の山々のありかさえ見わけのつかぬうちに、雷雨とともに、十丈もあろうかという逆波...