三界万霊塔
さんがいばんれいとう
初出:「富士」1949(昭和24)年6月分量:約50分
書き出し:一深尾好三はゆたかに陽のさしこむ広縁の籐椅子の中で背を立てた。「ひさしぶりに会社へ出てみるか」油雑布で拭きあげたモザイックの床と革張の回転椅子と大きな事務机が眼にうかんだ。押せば信号《ノーティス》が返ってくるパイロット式の呼鈴。手擦れのした黒檀の葉巻箱。とりわけ濠洲以来の古い九谷の湯呑……それらは二十年来の事業の伴侶であり、活動の心棒になる親しい小道具どもだった。深尾は丸ノ内仲之通の古めかしい赤煉...