顎十郎捕物帳
あごじゅうろうとりものちょう
17 初春狸合戦
17 はつはるたぬきかっせん分量:約34分
書き出し:あぶれ駕籠「やけに吹きっつぁらしますね」「うるるる、これはたまらん。睾丸《きんたま》が凍《こご》えるわ」師走《しわす》からこのかた湿りがなく、春とはほんの名ばかり、筑波《つくば》から来る名代の空《から》ッ風が、夕方になると艮《うしとら》へまわり、梢《こずえ》おろしに枯葉を巻き土煙《つちけむり》をあげ、斬りつけるようにビュウと吹き通る。いやもう骨の髄《ずい》まで凍えそう。もとは、江戸一といわれた捕物...