顎十郎捕物帳
あごじゅうろうとりものちょう
20 金鳳釵
20 きんぽうさ分量:約35分
書き出し:花婿《はなむこ》二十四日の亀戸天神《かめいどてんじん》様のお祭の夜からふりだした雨が、三十一日になっても降りやまない。神田佐久間町の焙烙《ほうろく》長屋のドンづまり。古井戸と長屋|雪隠《せっちん》をまむかいにひかえ、雨水が溝《どぶ》を谷川のような音をたてて流れる。風流といえば風流。火鉢でもほしいような薄ら寒い七ツさがり。火の気のない六畳で裸の脛をだきながらアコ長ととど助がぼんやり雨脚を眺めていると...