あのころ
あのころ
――幼ものがたり――
――おさなものがたり――分量:約11分
書き出し:父私が生まれたのは明治八年四月二十三日ですが、そのときには、もう父はこの世にいられなかった。私は母の胎内にあって、父を見送っていたのであります。「写真を撮ると寿命がない」と言われていた時代であったので、父の面影を伝えるものは何ひとつとてない。しかし私は父にとても似ていたそうで、母はよく父のことを語るとき、「あんたとそっくりの顔やった」と言われたものです。それでとき折り父のことを憶うとき、私は自分の...