緑衣の女
りょくいのおんな
初出:「秘密探偵雑誌」1923(大正12)年7月分量:約35分
書き出し:一夏の夕暮であった。泉原《いずみはら》は砂|塵《ほこり》に塗《まみ》れた重い靴を引きずりながら、長いC橋を渡って住馴《すみな》れた下宿へ歩を運んでいた。テームス川の堤防に沿って一区|劃《かく》をなしている忘れられたようなデンビ町に彼の下宿がある。泉原は煤《すす》けた薄暗い部屋の光景を思出して眉を顰《ひそ》めたが、そこへ帰るより他にゆくところはなかった。半歳近く病褥《とこ》に就いたり、起きたりしてう...