二重人格者
にじゅうじんかくしゃ
初出:「新青年」博文館、1927(昭和2)年11月号分量:約12分
書き出し:一河村八九郎は今年二十歳の二重人格者である。第一の人格で彼は大星由良之助《おおぼしゆらのすけ》となり、第二の人格で高師直《こうのもろなお》となった。彼がどうしてこのような二重人格者となったかは、はっきりわかっていない。父が大酒家であるという外、父系にも母系にもこれという精神異常者はなかった。ただ父方の曾祖父が、お月様を猫に噛ませようと長い間努力して成功せず、疲労の結果、人面疽《じんめんそ》にかかっ...