楢の若葉
ならのわかば
初出:「釣りの本」改造社、1938(昭和13)年分量:約5分
書き出し:いま、想いだしても、その時のことがはっきりと頭に浮かび、眼にも描かれる。三十五、六年前の四月二十四日のひる前であった。私は十二、三歳の少年。父は三十七、八歳。溢れるような元気に満ちた壮者であったに違いない。はやは、利根川の雪代《ゆきしろ》水を下流から上流へ上流へと遡《のぼ》ってきた。はやという魚は、おいしいとほめるほどでもないが、産卵期が近づくと、にわかに活動が盛んになってきて、頭から横腹、尾の端...