富士はおまけ(ラヂオ・ドラマ)
ふじはおまけ(ラジオ・ドラマ)
初出:「文藝春秋 第十三年第二号」1935(昭和10)年2月1日分量:約21分
書き出し:富士を遠景に、霞のなかに浮ぶ峠の古風な掛茶屋。軒先に山桜の一株が綻び始めてゐます。茶屋の主、東定臣が、ネルのシヤツにコオルテンの半ズボンを穿き、店の前の道を鍬で平《な》らしてゐます。時々、腰を伸ばし、空を見上げるのですが、やがて、定臣ああ、やつとこの峠にも春が来た。それにしても昨日までの冬はどこへ行つた?満洲か?西比利亜か?さうだ、ここんところ、東北の饑饉騒ぎで、兵隊さんに送る慰問袋の方を、すつか...