「雛」の感想
ひな
初出:「中央公論」1923(大正12)年3月

芥川竜之介

分量:約31
書き出し:箱を出る顔忘れめや雛《ひな》二|対《つゐ》蕪村これは或老女の話である。……横浜の或|亜米利加《アメリカ》人へ雛《ひな》を売る約束の出来たのは十一月頃のことでございます。紀の国屋と申したわたしの家は親代々諸大名のお金御用を勤めて居りましたし、殊《こと》に紫竹《しちく》とか申した祖父は大通《だいつう》の一人にもなつて居りましたから、雛もわたしのではございますが、中々見事に出来て居りました。まあ、申さば...
更新日: 2021/11/27
19双之川喜41さんの感想

 無尽灯を ランプに変えた日 土蔵のなかで膳を囲む場面が 心にのこる。 父親も 雛に 別れ告げたかったのが 伝わってくる場面もよいと感じた。

更新日: 2017/02/15
あきらちゃんさんの感想

私たちが明治維新と教科書で教わるものは、当の江戸市民にとっては、御瓦解というべきものでした。 徳川将軍家の治世の終了とともに生活の基盤が大きく変わっていったのでしたから。 この作品の舞台はその変化のなかで没落を余儀無くされた、旧幕時代には豪商の端くれだった商家です。大名家に金を貸して商いをしていたここの商家は 大名家に貸した金のほとんどが焦げ付き、新しく手を出した商売は失敗して 更に火事にも見舞われて、残った土蔵に一家四人で暮らす。そんな有り様でした。 この商家の娘の鶴の持ち物である雛が一家の生活の為にアメリカ人売られてしまうことになり、雛に纏わる家族の心情が描かれているのがこの作品です。 この商家の一家四人にとって、売られていく雛の持つ意味は相違があります。 鶴にとって雛とは失われる所有物です。無くなるということで惜しいという念が生じて、売る前にひと目見たいと願いを抱くようになります。 しかしながらまだ15歳の少女である鶴にとって雛はそれ以上のものではない訳です。この物語の登場人物の中で一番新しい時代の到来をごく自然に受け入れているようです。これは家にランプが来た時の態度や知りあいのつてで人力車に乗せて貰っている時の態度から見て取れる。 一方病弱な鶴の母親にとっては、雛は流れ去っていく時代、自身の慣れ親しんだ旧き善き時代を象徴するものでした。もう若くなく、身体が弱っているなかで家の財産を失ない新しい時代に放り投げられることに、不安や気落ち怯えや気だるさを感じているのです。この物語のなかで文明開化の象徴と扱われているランプの明るい光に不安そうな顔をしたり、新しいものが好きな開明派の鶴の兄の英吉に苛立ちを感じて詰るような行動にでるのです。 鶴より3つ歳上の兄英吉は、より複雑な心境にあるようです。彼は西洋から来た新しい文物を尊び、英語の本を片時も離さない一方で、雛人形など旧弊だと馬鹿にしているようなことを言い母を苛立たせ、鶴を怒らさせるそんな青年です。 一見すると単純に新しい時代を西洋の学問を身に付けて、政治の分野で渡って行こうとしている新しもの好きな青年に思えます。 しかしどうもそれだけではないように思われる描写があります。 もう一度雛をみたいと父親にせがむ鶴に苛立ち、折檻をするのは少し極端に思えてなりません。また鶴を苛めたり雛を売りたがるのは自分が憎いからだという母の言葉に涙を流したりする場面などからもその思いは強くなります では英吉は何を思っていたのでしょうか、その答となると思われるのが、人力車に初めて鶴が乗った場面です。 英吉は、父が雛を見ることを承知しないのは未練が生じるからだと、鶴を優しく諭します。おそらく英吉の中にも未練があるからの言葉だと考えられます。もちろん、英吉は雛そのものではなく、雛が象徴する生家の裕福さや繁栄、最早過ぎ去って過去の物となってしまったものへの未練です。 鶴の父親にとっての雛とはどういう物だったのでしょうか、父親は雛を売ることを決め、手付金を受け取ってからは、鶴が雛を見ることを承知しませんでした。しかし、雛を渡す前夜に夜中に起きた鶴は雛を飾り眺める父親の姿を見ます。このラストの場面こそ父親にとっての雛がどういうものか語られています。 どちらかと兄の英吉に近いものだと思われます。過去の繁栄や裕福さを象徴していることは確かです。 しかし、父親の場合はそれ以上に象徴しているものがあります。 最後の場面には、父親の老いが語られている描写があります。これがけっこう重要かも知れません。 英吉にとっては生家の没落ですが、父親にとっては自身が為してきたこと、その結果が雛いえ雛を売るということが象徴しているものなのです。 老いの描写があることからも、若い時分から壮年になり老いがみられるまで為してきたことの結果で、最早やり直しも効かないということです。 時代の流れに翻弄され、家業を守れなかった主人が、取り返しのつかない状態で過去の繁栄の象徴である雛を眺めているという何とも切ないラストの場面なのです。

更新日: 2017/01/13
81f40d9f8e70さんの感想

少女の細かな心理描写にとても共感しました。優しく繊細な文章で好きです。 雛人形は女の子の為のもので、今は私のための雛人形だという意識もそうですし、だからこそ手放すのが惜しく悲しく、共に過ごしたからこそ別れがつらいのだと感じました。 あんなに否定していた父が最後に雛人形を並べた姿を目撃して、奇跡のようだと惚けてついぞ忘れることなく老婆になっても憶えているのに不思議な感動を覚えます。 また読みたいと思う作品でした。

更新日: 2016/03/13
77bae0f32e0fさんの感想

分かりにくい。

更新日: 2015/12/22
b6226aa70d42さんの感想

久々に読んだ。こういう話は好きだね。